温経湯(うんけいとう)は、冷えと血行不良、血虚(血の不足)に効く処方です。
婦人科疾患の場合、多くがこの3つのどれかと関係があるので、婦人科疾患に広く使いやすい処方です。
特に冷えと血行不良と血虚の3つ全部を抱える患者には鋭い効き目を発揮します。
適応する症状が広いので、「漢方が初めて」という方でも使いやすいものです。
運経湯は
1 衝任虚寒(しょうにんきょかん)
2 血瘀血虚(けつおけっきょ)
という2つの症状(証)を改善する処方です。
衝任虚寒に効く:排卵、生理の早まり・遅れへの効果
「衝任虚寒(しょうにんきょかん)」とは
・生殖能力に関わり、月経を調整する経脈(衝脈)
・妊娠に関わる経脈(任脈)
の2つの機能が虚弱で弱っている症状です。
特にこれらは女性の月経・生理に関係が深いものです。
血が不足して病気に侵されると、血の巡りが悪くなります。
つまり、骨盤内の動脈の血行が悪化している状態で、生理痛や生理が遅れる状態になります。
そのほか、
・経血量が減る
・経血の色がどす黒くなる
・経血中に結界が混じる
・生理不順
・無月経、不妊
などの症状が出ることもあります。
子宮内膜が傷つけば、不正性器出血が起こります。生理が早く来たり、生理の出血量が多すぎる過多月経になる場合もあります。
温経湯(ウンケイトウ)はこの症状を改善するため、排卵が早まっている状態や遅れている状態を元の正常な周期に戻す(早まるまたは遅らす)効果が期待されます。
婦人科以外では、下腹部や腰の冷え、疼痛、冷通、腹部膨満感、下痢、足の冷えが生じやすいという症状があります。
血瘀血虚に効く:冷え、乾燥など
「血瘀血虚」は、うっ血や血行障害(血瘀)と血の不足(血虚)の両方を兼ね備える症状(証)です。
血瘀証は、衝任寒虚のために血行が悪化して発生します。
その結果、骨盤内で卵巣や子宮の機能が失調をきたしやすく、生理痛や生理の遅れ、ドス黒い経血、経血ちゅうの黒っぽい血塊、不正性器出血などの症候が生じます。
血虚証は、虚寒と血瘀のために栄養不良の状態が生じて引き起こされます。
体が十分潤わないので皮膚にツヤがなく、唇が乾燥しやくなります。
目が疲れやすく、しびれ、ふらつきなどの症候も伴いやすいです。
虚寒がある上に血虚なので、手足の冷え、寒がり、顔色が青白いなどの症候も出ます。
血瘀と血虚の両方があると熱証が生じやすく、
・手のひらがほてる
・夕方に微熱が出る
・気持ちが落ち着かない
・唇が乾燥する
といった症状が現れます。
へそより下(下焦)が冷えているので、熱証は上半身に表れやすいため、手のひらのほてりや唇の乾燥が、この症状の重要な指標です。
唇はタンパクあるいは暗色で、青紫色の斑点が見られます。
以上のような、衝任虚寒、血瘀血証の不正性器出血、月経の遅れ、無月経、過少月経、不妊症、生理痛の改善に温経湯(ウンケイトウ)が使われます。
手荒れや主婦湿疹(進行性指掌角皮症)、しもやけにも効果が期待されます。
女性だけでなく、もちろん男性にも効果的です。
配合生薬
温経湯(うんけいとう)に含まれる成分(配合生薬)は
呉茱萸(ごしゅゆ)
桂枝(けいし)
当帰(とうき)
芍薬(しゃくやく)
川芎(せんきゅう)
牡丹皮(ぼたんひ)
人参(にんじん)
阿膠(あきょう)
麦門冬(ばくもんどう)
甘草(かんぞう)
半夏(はんげ)
生姜(しょうきょう)
の十二味です。
君薬 呉茱萸、桂枝
処方の中心となる生薬(君薬)の「呉茱萸(ゴシュユ)」は辛味の強う大熱性の生薬で、風邪を温めて発散させ、冷通を和らげます。
同じく君薬の「桂枝」も辛味・温性で、経脈の血を温めて巡らせ、寒邪を消す(温経散寒:おんけいさんかん)の効果があります。
「呉茱萸(ゴシュユ)」と「桂枝」の2つの配合で動脈が拡張され、より血行改善、寒邪の消失、鎮痛の効果が高まります。
臣薬 当帰、芍薬、川芎、牡丹皮
「当帰」「芍薬」「川芎(せんきゅう)」は、血瘀を除去しつつ、血を養って補いつつ、月経を調整します(養血調経:ようけつちょうけい)。
さらに「牡丹皮」にも血瘀を排する働きがあります。
桂枝との組み合わせで、桂枝茯苓丸と同様、活血作用が強まり、虚熱も除去します。
「当帰」「芍薬」「川芎」「牡丹皮」4つのが君薬の作用を補助し、効能を強める生薬(臣薬)です。
佐薬 阿膠、麦門冬、人参、甘草、半夏、生姜
「阿膠(あきょう)」は肝血と腎陰を養い、体をうるおします。造血や止血の作用もあります。「麦門冬」も体内の栄養物質に富んだ液体(精・血・津・液など)の陰液を養い、清熱の作用があります。
「阿膠(あきょう)」と「麦門冬」の配合で体内の液を養い、うるおし、虚熱を和らげます。また、「呉茱萸(ゴシュユ)」と「桂枝」によってもたらされる発熱(温燥)を緩和する役割も持ちます。
「人参」と「甘草」は胃腸の消化機能を整えて気を増します(補中益気)。
「半夏」は「人参」「甘草」とともに脾臓と胃を整えます。
「生姜」は脾胃を温め、腹痛や冷え・下痢を治療し(温裏散寒:おんりかんさん)、「半夏」とともに体を温めて胃を整え(温中和胃)、消化機能を高めます。
「阿膠(あきょう)」「麦門冬」「人参」「甘草」「半夏」「生姜」これら六味は君薬、臣薬を補佐する佐薬です。
とくに「甘草」は薬効を調和する(使薬)働きを持ちます。
温経湯と桂枝茯苓丸の併用は?
温経湯(うんけいとう)は、冷え・血瘀(けつお)、血虚の3つ全てがある時には非常に有効です。
しかし、3つ揃っていない場合は、別の処方の方が効きます。
冷えがなく、血虚(乾燥や目の乾き)もない血瘀のみの場合(以下の例参照)
・顔色が暗かったりくすみがある
・目の下にクマがある
・肌が荒れて、シミがある
・体にいつも痛みがある
・刺すような痛みが同じ場所におこる
・手足が冷える
・月経の出血量が多く、血の塊がでる
【桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)】のみの方がシャープに効きます。
一方、【桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)】はその名の通り、「桂枝」がメイン(君薬)になっています。
【温経湯(うんけいとう)】でも使われており、2つを併用した場合、効きすぎて副作用を生じる可能性があるので、併用はオススメしません。
漢方は自然治癒力、自己の回復力を高めるものです。
【温経湯(うんけいとう)】による3ヶ月での冷え性の改善の例もありますが、普段から体を冷やさない、よく水を飲む、体を動かすなどの体の血の巡りを良くする習慣も大切です。